『人民の敵』創刊号(2014.10.1発行)


コンテンツ3
〈対談〉with スガ秀実
〈正規版“購読”検討用・抜粋〉


スガ 中国には新左派って人たちがいて、おれもだいぶ前から注目してたんだけど……。
外山 毛沢東主義っぽい人たちですか。
スガ うん。毛沢東再評価、文革再評価っていう。要するに彼らはもともと留学生組が多いんです。
外山 ああ、「毛沢東主義」というより「マオイズム」として。
スガ そうそう。ヨーロッパなんかに留学して、アルチュセールとかを勉強したりして、「意外と毛沢東って評価されてるじゃないか」と目覚めるような。そういうインテリ・グループが中国に戻って「新左派」という勢力を形成していて、その親玉が汪暉という学者で、翻訳もいっぱい出てる。で、習近平のバックというのは新左派なんですよ。
外山 へー。
スガ つまりその汪暉ってのがブレーンなんです。習近平は毛沢東派で、ある意味ではリベラルだとも云われてる。文革世代だし、文革についても、もちろん毛沢東についても評価してるの。


外山 新左派の人たちは中国の近年の資本主義体制的なものには、やっぱり……。
スガ 肯定してる。
外山 あ、肯定なんだ。
スガ やっぱり肯定せざるをえないんですよ。
外山 肯定はしてるとしても、貧富の格差が拡大したりしてることを憂えてたりはするんですか。
スガ そこは一応、憂えてたりはしてるんだよね。市場原理一辺倒の路線の修正は必要だと考えてて、実際に修正してると云えばしてるわけだよ。習近平はその……。
外山 腐敗を摘発したり?
スガ うん。腐敗分子を。
外山 たぶんこういうことですよね。想像で云うにすぎないんだけど、想像するに、古典的マルクス・レーニン主義からすれば、資本主義のもとで生産力が充分に増大しないことには社会主義革命は起きないんだから、いったん資本主義に戻して生産力の増大という過程をやり直しましょう、と。
スガ そうそう。
外山 理屈としてはそう正当化するしかないですよね。逆にそう理屈づければ今の資本主義路線を共産党として正当化できる。
スガ そういうことです。それに文革には、中国に残存してた封建的な身分制みたいなものを破壊した側面もあったわけでしょう。そういう過程があったから近代化も可能だったわけで、その意味では肯定しうるということになる。だけど一般論としてはやっぱりアメリカ帝国の方が、まだいいよ(笑)。
外山 中国が昔の「帝国」の時のように、周辺の属国はそれぞれ勝手にやってなさい、とにかく定期的に“朝貢”して礼を尽くしてさえいれば悪いようにはせん、ということであれば中華帝国でいいんですけどね。
スガ その場合の「礼」が何なのかにもよるけどね(笑)。
外山 印鑑をもらったら素直に喜ぶとか(笑)。まあ欧米と中国との間で何か問題が発生した時には中国の側につくとか。あるいは、チベットやウイグルにはもうちょっと相対的な自立を許してほしいけど、漢民族の本拠の地域を共産党が独裁的に支配していることに関しては一切文句は云わないとか。
スガ 今の日本や台湾程度の“相対的自立”で許してくれるならそれでもいいんですけどね。


スガ リフレ政策っていうのも元々はリベラル派のもので、クルーグマンか何かの系統の政策でしょ。それを誰が安倍に吹き込んだのかってのも未だにはっきりしないらしい。
外山 リフレ政策って具体的に何をすることなんですか。
スガ カネをバンバン刷って、市場にバンバン流して……。
外山 わざとインフレを起こそうという?
スガ そうするとカネが余るでしょ。使い途がないから株を買って、だから株価は上がって当然なんだよ。つまり余ったカネが投資に回る。そのうち設備投資にも回ってくるから、景気が良くなったように見えるという、そういう話なんだと思うんですけど、簡単に云うと。で、それは元々はリベラル派の政策なんです。
外山 リベラル派はどうしてそういう政策を望むんですか。
スガ 景気が良くなったほうがいいということですよ、貧困層にとっても。
外山 とにかく景気を良くするための方策、と。
スガ そうそう。だから安倍ちゃんが第二次内閣でリフレ政策を始めた時に、日本のリベラル派は、山形浩生から荻上チキまでみんな支持した。今でも支持してるかどうかは知らないけど。ただ消費税は上げちゃダメだ、というのはクルーグマンも云ってたし今でも云ってる。ともかく安倍ちゃんがどうしてリフレ政策をやり始めたのかが……。
外山 もともとそういう人ではなかったんですね。
スガ だって第一次の時は財政規律派だったんだから。
外山 財政規律派というのは?
スガ 国の財政を立て直さなきゃ始まらないということが至上命題だったわけですよ、自民党も民主党も。
外山 ああ、それで民主党も“仕分け”とか云って……。
スガ そうそう。だけどリベラル派はそういう政策には批判的で、リフレ政策をずっと要求してて、それがどういうわけか安倍ちゃんに採用されてる。でもまあ、どうやったところでダメなんでしょうけどね、長期的に見れば(笑)。
外山 どうやってもダメなのはどうしてなんでしょう。
スガ 資本主義がダメだからですよ(笑)。世界資本主義がもう限界に来てて、日本でも水野和夫が最近そういうことを非常に分かりやすい新書で云ってるけれども。もはや先進国は利益を生み出せない。搾取する先がないから。第三世界という搾取先ももう使い果たしちゃって、中国だって伸びようにもこれ以上は伸びしろがないという、そういう問題。
外山 水野って人も最近よく聞くような気がするけど、どういう人なんですか。
スガ 元々は民間エコノミストです。一時期よくテレビに出てて、また安倍政権になってからはあんまり出なくなってるけど。
外山 安倍ちゃんには批判的な人なんですか。
スガ うん、批判的。証券エコノミストがどうして世界資本主義論の人みたいになっちゃったのか、よく知らないけど。
外山 リベラル派に支持されてるんですか。
スガ まあ相対的には支持されてるだろうし、集英社新書から最近出した本がものすごく売れてるみたいだけど、おそらく読者の多くはサラリーマンで、資本主義はもう終わりだ、みたいな内容の本をサラリーマンたちが一体どういうつもりで読んでるのか。
外山 これ以上はもうどうしようもないですよ、って話なんですか。
スガ そうそう。ちょっと前までは、東南アジアにファッション雑誌とか売れば日本資本主義にもまだ一縷の望みはある、みたいな話をする人たちもいたけど、もはやそういうことも云われなくなってる(笑)。もっと絶望的になってるわけだ。水野和夫はたしか民主党政権のブレーンをやってたはずですよ。
外山 もともと世相に疎いけど、最近はますますいろんな人がいて、誰が誰やらまったく分からない(笑)。
スガ おれも知らないけど、たいした人はいないですよ。外山君はそんなこと気にせず、好きなようにやればいいと思いますよ(笑)。


外山 鶴見済には、昨年だか九州でトーク・イベントをやってたんで、その時に久々に会いましたけど。
スガ あいつもドラッグとか、そういう……。
外山 すっかりロハスになって、健康志向だから、もうやってないんじゃないかな。“農”とかに走っちゃって(笑)。『反資本主義宣言』って本を出して、刊行記念とかで、九州2ヶ所でトーク・ライブをやったんですよ。そういえば「素人の乱セピア」でも何度か会ったから、そんなに久々ってわけでもなかったかな。「セピア」で会った頃にはもう、すっかりエコ・ロハスの人になっちゃってて、ゲンナリしました。
スガ 見田宗介的なサイクルが繰り返されてるなあ。
外山 鶴見さんとは昔よく顔を合わせて、そのたびに激論になってたんですよ。鶴見さんは「革命とか天変地異とか、そういう“デカい一発”なんかもう来ないんだ」という立場だったから、声高に“革命”を叫び続けてるぼくとは当然、相容れないわけで。だけど『無気力絶望工場』って本があったでしょ。『完全自殺マニュアル』から3年後ぐらい、95、96年ぐらいに出た本だと思うけど。その中で鶴見さんは、いわゆる左翼とかの人たちは世界の大問題、“天下国家”の問題を熱心に語るけど、自分にとって切実な“社会問題”というのは、ナントカ法がどうしたとかではなくて、日々時間に追われるような生活を強いられるとか、そういうことなんだと熱く書いてるんですよ。ぼくもまったくその通りだと思う、と。ぼくの云う「革命」というのは、鶴見さんが云うような意味での“社会問題”に関わることで、ナントカ法がどうこう騒いでる連中の云う「革命」と一緒くたにされては心外だと云うんだけど、当時の鶴見さんにはピンときてもらえず、毎回決裂してた(笑)。それが10年ぐらい経ってみると、向こうは典型的なリベラルみたいになってるわけでしょ。オマエはそういうのを批判してたんじゃないのか、と(笑)。
スガ あれも“3・11”以来だよな。
外山 いや、その少し前からですよ。プレカリアート云々の運動が盛り上がり始めた頃から徐々にそうなってきてた。「素人の乱」界隈でたまに会うようになったのは“3・11”より前だけど、もうすでにそうなってましたもん。昔云ってた話と違うじゃないですか、と云いましたけどね(笑)。昔の鶴見さんのラジカリズムそれ自体はぼくも当時から支持してたんだ、運動全般を否定するシニシズム的な結論に反対してただけであって、その前段の問題意識はぼくも共有してたんだ、それが何ですか今さらフツーの左翼みたいなこと云って、と抗議したんだけど、ポカンとされるばかりで、「ダメだこの人は」と(笑)。
スガ 鶴見君とはどこで知り合ったの?
外山 『SPA!』の「中森文化新聞」の“同期”だから。
スガ そうかそうか。
外山 同じ時期に中森明夫に猛プッシュされていて、「中森文化新聞」の初期だから、92年か93年あたり。『完全自殺マニュアル』が出るより前からですよ。中森さん界隈の集まりでよく会った。オウム事件直後の95年か96年までかな。
スガ 中森も相変わらずアイドル路線で、能年玲奈がどうこう騒いで。
外山 そういうのは別にいいんですけどね。スガさんも書いてたけど、時々「大杉(栄)が……」とか云いたがるところがありますよね。中森さんはシニシズムの人だけど、シニシズム路線を貫けばいいのに時々ブレる。
スガ 頭はいいんだけどねえ。
外山 大塚英志なんかがどんどんリベラル左派になっていっちゃう流れと、頑張って対峙してたじゃないですか、中森さんは。ああいう時にはぼくは中森さんの方にシンパシーを感じる。
スガ 世の中の動きはちゃんとウォッチしてるよね。まあそれが商売だと云えばそれまでだけど。
外山 ぼくをプッシュしたこともそうだけど、シニシズムのくせにどっか“ラジカル好き”なんですよ(笑)。
スガ そうそう(笑)。
外山 都知事選の時にも高円寺駅前集会の様子を見に来てましたよ(笑)。


スガ 陛下だって安倍ちゃんを倒すことはできませんよ。だけど安倍政権への最も有力なカウンターであることは間違いない。社民党や共産党よりよっぽど有力ですよ(笑)。
外山 一人で(笑)。
スガ 今上帝が崩御なされた場合でも、今の皇太子もおそらく、実際にどこまで発言できるかどうかはともかく、やっぱりかなりリベラルですよ。ある意味では父親にも反抗したぐらいですから、雅子妃問題で(笑)。
外山 反抗期まで経験なさっている(笑)。
スガ 右翼にとって一番都合が悪いのが、世論なんかじゃなく天皇だと思うんですよね。
外山 おそらく愛子さんもリベラルに育つんじゃないですか。
スガ 秋篠宮は皇太子よりさらにリベラルでしょうからね。
外山 リベラルの巣窟じゃないか、皇室(笑)。
スガ しかし左翼はそれでも天皇制を批判しなきゃいけないのに……。反天連が今どういう主張をしてるのか知らないけど。
外山 ぼくは今は天皇制に対して8割方肯定の立場だから、リベラルな皇室を見るにつけ「これだから天皇制は素晴らしい」と思ってて、政権がどんなにバカだろうが皇室だけは一定の節度を保ってる。
スガ その節度は基本的に冷戦体制における占領軍の皇室への教育の結果でしょう。
外山 そこはもちろん反米のファシストとしてはマズいところだけど。そもそもアメリカに教育されずとも、二・二六みたいな過剰なことが起きると天皇はそれを止める側に回っちゃうわけですからね。皇室は常に常識的で、過激なものを嫌う。
スガ 千葉君的な、あるいはドゥルーズ的な(笑)。だからこそ世界資本主義体制の中にあっても天皇がいるから日本はまだうまくいってるとも云えるわけで、天皇がいるかぎり革命も絶対に起きない。


スガ 話は変わるけど、九州の問題ともかかわって、谷川雁って岡本太郎と一緒で原子力万歳の人だったんだよ。それは50年代から60年代にかけての特徴で、当時の時代的限界だし、我々だって当時に生きてたらそうだったのかもしれない。元をたどれば武谷三男が「原爆は良くないが原発は良い」と云って以来、おそらく70年頃まで戦後ずっとあった。でも時代的なものだったとしても、その時代をどうくぐってきたのかはちゃんと検証されなきゃいけない。岡本太郎だって結局は大阪万博に行っちゃうようなくぐり方だったわけでしょう。谷川雁にはそこまで大きな瑕疵は見えないけど、テックの問題もあるし、宮沢賢治がどうこう云って童話教室を始めちゃうとか、いろいろあるんだから。それを我々後発世代が「サークル村はすごかった」みたいな話ばかりしてても仕方がないと思うんですよ。そもそもサークル村って別にすごくないんじゃないかと昔からおれは思ってて、あんなものセクハラ集団じゃないですか(笑)。
外山 いろいろくっついたり離れたりしてますよね。
スガ 森崎和江を読めば分かりますよ。家父長主義的だし、セクハラ集団なんですよ。雁はたしかにカッコよさげに見えるげと、そう見えること自体が何かオカしいと思えないようではマズいでしょ。岡本太郎もそうだけど、雁にも目立った汚点がないから、いまだに例えば鵜飼哲氏とかカルスタ系が繰り返し持ち上げて。
外山 福岡の小野君も谷川雁、谷川雁と云ってましたね。
スガ そういうとこが間違ってるんだよ。おれが指摘したのは岡本太郎に関してで、椹木とかが持ち上げてるのはオカしいと書いたけど、実は雁についても同じようなことが云えるんじゃないかと思ってた。例えば吉本隆明は『〈反核〉異論』を書いたからダメだけど、雁はそういうことやらなかったから良いとか、そんなことないし、むしろ逆ですよ。そういう検証を抜きに岡本太郎の「明日の神話」を賞揚したって意味ない。時代的な限界というものはあるだろうけど、それを時代的な限界だからと許してもしょうがないわけで。おれは土着主義ってのはダメだと思ってて、例えば九州ならアジア主義の方がまだマシだよね。頭山満にしても内田良平にしても、アジア主義ってのは“土着”とは違うでしょう。
外山 アジアってくくりにも多少違和感はあるけど……。
スガ アジアなんか信用できないもん(笑)。まあウイグルやチベットを助けに行くっていうんならアジア主義も根拠にできるかもしれないけど、そんなこと今は不可能だし。
外山 筑豊にしても水俣にしても、土着を強調しつつ土着的な差別構造みたいなものを問題にしていくようなところがありますよね、石牟礼道子の『苦海浄土』を2、3年前に初めて読んだんだけど(笑)。ナロードニキともまた違うんだろうけど……。
スガ 今やナロードなんかいないから。岡本太郎はナロードなんか意識してないと思うけどね、縄文がどうこう云ってたぐらいだし(笑)。谷川雁なんかはある種のナロードニキですよね。もしかしたら雁の時代にはまだナロードがいたのかもしれないけど、少なくとも今はもういませんよ。
外山 今のカルスタ左翼が谷川雁に学んでナロードニキをやろうと思っても、そんなのいない(笑)。
スガ 絶対いないでしょう。いてもせいぜい小ブルですよ。あるいはルンプロ。
外山 もしくはヤクザ(笑)。
スガ ヤクザももう厳しいでしょう。
外山 福岡のヤクザは頑張ってますけどね(笑)。